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GROUP STUDY EXCHANGE ROTARY DISTRICT 2650

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GSEご報告案内

フィンランドを旅して

本間太郎(明清建設工業株式会社)

要旨

エネルギー資源、環境問題が世界的に大きな関心を集める中で、持続可能な社会経済システムの構築が必要とされています。今回訪れたフィンランドは、世界有数の先進工業国である一方、世界トップレベルの環境大国として知られています。この点からも、フィンランドの施策は、日本にとって良い例となるのではないでしょうか。この報告書では、フィンランドと日本の違いについて、直接感じたことを中心にまとめていきたいと思います。

キーワード:フィンランド、国際競争力、都市計画、環境対策、教育制度

1.はじめに

フィンランドの環境対策、教育・福祉制度が世界でもトップレベルだということは、以前より耳にしたことがありました。その時のフィンランドの印象は、自然が豊かで、環境対策・社会制度が充実しているというものでした。

GSE研修が決まり、フィンランドに関する知識を深める中で、様々な事実を知りました。その中でも、フィンランドが国際競争力で世界トップレベルだということを知ったとき、強い衝撃を受けました。

「高緯度に位置し、人口500万人ほどの国が、どのようにして国際競争力で世界トップレベルになり得たのか」このような疑問を抱いたからです。

そして、GSE研修のメインテーマを、フィンランドの人々・文化・企業・制度に直接触れ、この疑問に対して自分なりの答えを見つけることに決めました。

また、職業研修の観点では、「都市計画」、「環境対策」、「教育制度」というテーマに絞って報告したいと思います。「建設業」ではなく「都市計画」としたのは、建設業を含めたフィンランドの「まちづくり」について学びたいと思ったからです。また、フィンランドの企業が取り組んでいる環境対策について学び、自社の環境対策に生かせればという思いもありました。

「教育制度」は、今回の職業研修でも非常に重要視されていたように思います。そして、この教育制度こそ、現在のフィンランドの躍進を根底から支えているものだと強く感じました。

2.都市計画

2-1.トルニオ・ハパランダの都市計画

フィンランドに滞在して7日目に、トルニオという町を訪れました。トルニオは、人口22,300人、面積1,227km2の小さな町です。

この町で、都市計画に関する大変興味深い話を聞くことができました。それは、フィンランドのトルニオとスウェーデンのハパランダという町が、国境を越えて「まちづくり」を行っているというものです。

背景には、ヨーロッパの中心から離れ人口の少ない両国が、協力して国際競争力を高めていこうという考えがあるようです。

国境を行き来するのは自由で、学校・図書館などの教育施設は双方の地域に開放されています。また、企業の誘致にも積極的で、ハパランダにはIKEAという世界的家具メーカーも存在します。

トルニオ・ハパランダの都市計画は、1996年にコンペティションを行い決定されました。国内外問わず46の企業が参加し、そこから3つの計画案が採用され、それらを1つにまとめて都市計画が作成されています。

後に、オウルでのホストファミリーが経営する建設会社の計画案が採用されていたことが分かりました。彼からは、フィンランドの建設業に関する様々な話を聞くことができました。

フィンランドの公共工事は、計画から施工まで一連の流れで発注されることが多いということ。計画の内容が最も重要視され、落札業者も「価格」と企業の「質」によって決定されるということ。また、物件によって、「価格」と「質」のバランスが変わるということなどです。

日本の公共事業で都市開発が行われる場合、建設業者が計画に介入する余地はほとんどなく施工を専門的に行うというのが一般的です。落札業者の決定に計画の内容というものはなく、価格の競争になっているのが現状です。

最近では、企業の能力を考慮した総合評価方式が採用されつつありますが、まだまだ発展途上だと言えるでしょう。トルニオ・ハパランダの都市計画について感じたのは、「よりよいまちをつくる」という目標実現のために最善の努力を行っているということです。

異なる国の二つの小さな町が、地域の経済発展と生活水準の向上を第一に考えて選んだ道は、国境を越えた「まちづくり」というものでした。

また、コンペティションで3つの計画案を選択して、1つにまとめるとういう行為は、大変合理的だと思います。最善の案がなければ自分たちで作ってしまえばいいという発想、私自身も見習っていきたいと思います。そして何より、既存の思考・制度を打ち破るフィンランドの人々の柔軟な発想と行動力の強さに深い感銘を受けました。

  

2-2.オウルの街づくり

今回のGSE研修では、オウルを二度訪れ、合計9日間滞在しました。オウルはフィンランドの中部に位置する人口約131,000人の中枢都市です。

北ヨーロッパの中では、科学・教育・文化の中心として発展してきました。街を訪れ、オウルは歴史情緒あふれる落ち着いた街だという印象を受けました。

中心部の道路は全て石畳で出来ており、電線も埋設されていました。また、街を歩いていると、スピードハンプが到る所に設置されていることにも気付きました。

オウルの市街地

二度目にオウルを訪れた際、市の都市計画課で話を聞くことができました。一般道558kmに対して、自転車道が498km整備されている点から、自転車交通の重要性がうかがえます。

石畳で舗装をする第一の目的は、歴史的な景観を保護するというものでした。また、副次的な目的に、スピード抑制が挙げられます。

通常のアスファルト舗装に比べて何倍もコストのかかる石畳舗装に市民が理解を示している点は、現在の日本と大きな違いがあると言えるでしょう。

スピードハンプは、市内に200ヶ所以上あり、実際交通事故が減っているとういうことでした。

スピードハンプの設置状況

スピードハンプの設計図

3.環境対策

3-1.住民の環境意識

世界経済フォーラムが発表する環境持続指数で、フィンランドは2002年と2005年に1位、2008年に4位と非常に高い成績を収めています。

しかし、フィンランドの人々が、何か特別なことをしているという印象は受けませんでした。エコバッグの使用やゴミの分別など、自分たちが出来る範囲で環境対策を行っているという感じを受けました。

スーパーで買い物をしている人は皆エコバッグを持参しており、商品の包装も簡易なものがほとんどでした。また、訪れたほぼ全ての町で分別を促すゴミ箱を見ることができました。

ロバニエミ空港のゴミ箱(図5)を例に見てみましょう。左から、電池・金属・ガラス・プラスチック・一般のゴミ・紙となっています。前者の三つはリサイクルされ、後者の三つは廃棄されます。ゴミ箱一つ見ても、国や地方の環境意識の高さが伝わってきました。

ロバニエミ空港のゴミ箱

このように、エコバッグを持ちゴミの分別が当たり前だとする社会システムを作り上げたところに、環境対策でフィンランドが成功を収めた要因があるのではないでしょうか。

  

3-2.企業の環境対策

フィンランドの主要産業には、木材関連、金属、そしてハイテクが挙げられます。今回訪れたフィンランドの北部では、木材関連産業が特に盛んで、4つの木材関連の工場を見学することができました。

ペロという町のログハウスメーカーでは、廃材のリサイクルに関する興味深い事例を見学することができました。

工場内では、木材を加工する過程で、たくさんの木片・木屑が発生します。この工場では、大きな掃除機のような機械で木片・木屑を収集し、それを燃やしてエネルギーとして、工場内の床暖房などに活用していました。

資源を循環させるという考え方は一般的で、古くから行われているということでした。

ログハウス工場の集塵機

イバロという町では、ヒーティングシステムを扱うエネルギー会社の工場を見学することができました。

この工場では、町の中にある森林から木材をチップにして運び、それを燃やして水を温め、圧力をかけて125℃にしています。

この熱湯が地下のパイプを通って各施設・家庭に配給され、床暖房などに利用されているのです。

この工場では、毎時3.2MWのエネルギーを生成しており、学校やホテルなど大型施設を中心にエネルギーを供給しているということでした。

チップが燃えた後に残る炭は、水道局に運ばれ水を浄化するのに使われています。ここでも、資源の循環がなされていました。

訪れた全てのログハウスメーカーで、木を伐採した後には植林を行っていました。木は光合成により、地球温暖化の原因である大気中のCO2を吸収します。

また、加工されログ材となった後も、樹幹内に炭素化合物としてCO2を貯蔵し続けることができます。このような認識を持つと、ログハウスは環境に優しい住宅だと言えるでしょう。しかし、輸送・木材加工・建設工程など、まだまだ環境負荷を低減する余地は残されていると思います。

今後は、トータルで環境負荷を減らすという観点がますます重要になってくるのではないでしょうか。

ログハウスメーカーにおけるCO2循環の概念図

4.教育制度

4-1.フィンランドの教育レベル

フィンランドは、PISAで毎回高い成績を収めています。PISAとは、15歳児を対象とする国際学習到達度調査のことで、2000年に最初の本調査が行われ、以後3年ごとのサイクルで実施されています。

読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野についての調査で、2000年には読解力、2003年には数学的リテラシー、2006年には科学的リテラシーが中心分野として扱われています。

フィンランドと日本におけるPISAの結果を表1に示します。日本も高い成績を収めていますが、フィンランドはさらに上をいっています。

いったいどのような違いがあるのでしょうか。フィンランドと日本のレベル別生徒の割合を見てみましょう。レベル5以上の生徒の割合では、フィンランド21%、日本16%と両国とも高い値を示しています。

レベル2未満の生徒の割合は、フィンランドが18%に対して日本は31%であり、ここに大きな差があります。グラフからも分かるように、レベルの低い生徒の割合が少ないというのが、フィンランドの特徴だと言えます。

フィンランドと日本におけるPISAの結果

フィンランドと日本のレベル別生徒の割合
(2006年、科学的リテラシー調査)

4-2.フィンランドの教育制度

フィンランドでは、全市民に義務教育から大学レベルまで質の高い教育が無償で提供されています。天然資源も人口も少ないフィンランドにとって、知的資源がいかに大切かということが分かります。

教師になるためには修士号が必要で、教師は社会的にも尊敬されています。また、教師には大きな裁量が与えられており、授業の進め方や時間割などを自由に決めることができます。

総合学校(日本の小学校、中学校)の2年生のクラスを訪問した際、私たちを交えて授業を進めるということがありました。

生徒の質問に私たちが答えるというやり方で、黒板に日本語を書いて内容を説明するということも行いました。教師に大きな裁量が与えられているからこそできることだと思いました。

その後、授業を見学して、日本の授業の進め方と大きく違う点に気付きました。まず、教師はある問題を例として示し、生徒と一緒にその問題を解きます。その後、生徒同士で問題をつくらせ互いに答えさせるという授業の進め方をしていました。

総合学校の授業風景

生徒は授業に受け身ではなく、積極的に学習をしているという印象を受けました。質の高い教育制度が、質の高い教師を生み出し、その教師がフィンランドの教育を支えているのだと強く感じました。

5.まとめ

今回、「都市計画」、「環境対策」、「教育制度」というテーマを持って、GSE研修に臨みました。

その中で、フィンランドが日本と大きく違うと感じたのは、「目標」を達成するために最善の組織、制度を構築しているという点です。

前述したように、トルニオ・ハパランダの都市計画では、国際競争力を高めるという目標のために、2国間で協力してまちづくりを行っていました。また、教育に関しては、子供たちが自ら学び考えられるように、教師は授業の進め方を考えていました。

既存の組織や制度にとらわれず、新しいものを生み出していくフィンランドの人々の気質は、私にとって大変魅力的なものでした。組織や制度というとても変え難いものを変えていける柔軟な発想や積極的な行動力が、刻々と変化する世界の中でフィンランドがトップレベルの競争力を維持している要因ではないかと思います。

今回のGSE研修で出会った方々は皆、私たちを大変温かく迎えて下さいました。これも、過去にGSE研修に行かれた先輩方やロータリークラブの方々が取ってきた行動によるものだと思います。自分たちが取った行動が、他の人々に影響を与えるのだと強く感じました。

今回のGSE研修で日本やフィンランドで受けた恩恵を、自分の周りにいる人々に対して還していくことが私自身の務めだと思っています。

お世話になったすべての方々に深く感謝して、この報告書を終えさせていただきます。

参考URL

フィンランド大使館ホームページ
http://www.finland.or.jp/
フィンランド政府観光局ホームページ
http://www.moimoifinland.com/
文部科学省ホームページ
http://www.mext.go.jp/
OECDホームページ
http://www.oecd.org/home/
世界経済フォーラムホームページ
http://www.weforum.org/en/index.htm


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